創設者は、2002年に富士通株式会社に入社した高橋裕さん。普段は富士通のグローバルマーケティンググループに在籍し、同社のマーケティングに関わる仕事を本業としている高橋さんが、なぜ会を作ったのか話を伺った。
伝統文化とは無縁だと思い込んでいた子供時代
「お節を食べない家でした。」
高橋さんが記憶しているのは、幼少時代に伝統文化とは無縁の生活をしていたという思い込み。中学から大学生くらいまでの学生時代、ずっと心に抱いていたという。その頃の記憶があるため、逆に社会に出たあとで知りたいという心に火が付いたのかもしれない。
「今思い返せば、皆無だったというわけではなく、年越しそばも食べてましたし、神社にお参りにも普通に行ってました。また、地元には御柱祭という七年に一度の祭りがあるのですが、子供時代には木遣りという山の神様を呼ぶ歌の練習に通ったりもしていました。慣習的な行事も含めて、ちゃんと経験していたんです」
一方で、日本文化とは縁遠いと感じていたことも事実である。高橋さんは、なぜそういった思いを抱くようになったのか。
「生活スタイルが洋式化しているのは間違いなく大きいと思います。伝統文化の作法・様式に触れる機会が特別なことになってしまっています。逆であれば、縁遠いと感じることもなかったでしょう。加えて、日本文化のエッセンスを自分が理解できていないという思いがあります。これは、逆に茶道に少しだけ足を踏み入れたからこそ、余計に感じることでもあります。先人たちが築いてきた日本の伝統文化の厚みは計り知れません」
だからこそ、高橋さんは、日本の伝統文化に触れるきっかけを作りたいとの思いで活動している。
まだまだ拡がる社内のつながり
「メンバーが1,000名くらいになるポテンシャルはあるはずです」
活動2年余りでメンバー160名に急拡大した日本文化を愛する会の活動。とはいえ、富士通グループ10万人余りから見れば1/100に満たない。また、男女比で言えば、会のメンバーは女性に偏っている。富士通グループは男性率が高いのとは逆転している。
「会のメンバーにも協力してもらって、社内のいろいろな取り組みと連携することも考えています。昨年くらいからは、働き方改革という文脈で様々なことが取り組まれています。私たちの活動も、その一つのきっかけになれば良いと思います」
社外にも繋がり拡がる活動
名刺を二枚持っていることで、高橋さんの活動は通常のビジネスとは別の軸で社外にも拡がっている。富士通は、もともと日本文化に関わる活動に積極的な企業と認知されているわけでないものの、個人でありながら企業のバックボーンも背景に活動できる可能性を感じているという。
「東京五輪の関係もあって、スポーツや文化に関わるイベントなども、富士通として今後実施されるでしょうし、周辺には様々な文化活動に関わりの深い企業もあります。今後、そういった企業の方々と何かしらのつながりが持てて、面白い活動に発展できればと考えています」
働き方のスタンダードが変わりつつある。本業を持ちながら、プラスアルファで自分のやりたいことを追求する。そこでの経験や人脈を本業にも活かし、逆もあり得る。そんな、柔軟な働き方を国も推進する姿勢を示している。先進企業に続いて、大手企業でもそういった動きが進みつつある。富士通もその例に漏れない。
「富士通くらいの会社になるとなかなか動きが遅いと思っていたのですが、意外にそうでも無かったですね。柔軟な働き方という観点では、昨年と今では全く状況が変わっています。当然、本業で自身のアウトプットと価値を出すことは大前提ですが、プラスアルファの活動がそれをさらに高めるような働き方を、私自身追求したいですね」
「知りたい」「体験したい」のその先へ
「日本文化を愛する会」は、「知る」「繋がる」「発信する」という3つを軸に活動を進めてきている。それは、日本文化のエッセンスを気軽に学び体験する機会を作りたいとの一心で始めた活動であった。しかし、高橋さんの目線はさらに先へと向かっているようだ。
「一度、グロービスの方を招いてワークショップを開いたことがありました。その方自身、日本歌曲を世界に広める活動をされていて、日本文化の持つ価値だけでなく、活動として会としての軸足をどこに置くのか。そんなことを深く考える機会になりました」
高橋さんたち自身、まだその問いの最終回答にまでは至っていないというが、一つの軸として、日本伝統文化のエッセンスを現代の価値に置き換える「リブランディング」というキーワードがある。
「だからこそ、企業内で、なおかつICTカンパニーの富士通のなかで取り組む価値があると思っています。日本文化x企業、日本文化xICT、こういったクロスするところに価値の再定義が生まれると思っています。茶道を茶道として未来永劫繰り返す。文化の本質はそこではないと思います。継続する様式や型、あるいは技術の中にある本質的なエッセンスを、いかに持続可能な形で後世に繋げていくか。そんな視点が重要だと考えています」