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Evolving Tradition in Japan #6 小堀 宗翔(こぼり そうしょう)氏

Evolving Tradition in Japan #6 小堀 宗翔(こぼり そうしょう)氏

「Evolving Tradition in Japan」は、伝統文化を担い次代に繋いでいく“人”にフィーチャーしたインタビューシリーズです。様々なジャンルの日本の伝統文化のトップランナーをご紹介していきますのでお楽しみください。

遠州流茶道

竹村(JCBase):今回のゲストは、遠州茶道宗家13世家元次女の小堀宗翔様です。小堀様は、遠州流茶道のみならずラクロス元日本代表のご経験を活かして、アスリート向けのお茶会などスポーツと文化の融合・発展をテーマに幅広く活動をされていらっしゃいます。これまでの取り組みや目指していることなどを伺いながら、伝統文化を次世代に繋いでいく思いに迫っていきます。早速ですが、遠州流茶道について教えていただけますか。

小堀宗翔氏(以下小堀):遠州流茶道は約440年前に私の先祖である小堀遠州という人から始まった流派で、私の父が13代目の家元を継いでおります。初代の小堀遠州がどんな人かといいますと、お茶に精通していたのはもちろんですが、徳川将軍家の茶道の指南役をしていました。また、二条城や大阪城、名古屋城の天守閣などの建築にも関わっていたり、作庭にも力を注いでいて、京都にあるお庭に小堀遠州作のものが多くありまして、総合芸術家とも言われています。

竹村:一般的に我々が想像する茶道と、将軍家はじめ武家の茶道との違いは、どういったところにあるのでしょうか。

小堀:皆さん”侘び寂び”という言葉はお聞きになったことがあるかと思います。お茶の大宗匠である千利休が極めた美意識で、黒いお茶碗だったり暗く狭いお茶室だったり、無駄なものを削ぎ落とした美しさの中でお茶を楽しみましょうというものです。小堀遠州は、侘び寂びの精神を受け継ぎつつも、明るさや豊かさ艶などを加え、お茶室に窓をつけたり高さをつけたり、千利休が真っ黒い茶碗を好んだのに対して、どなたでもあなたの色に染めて良いですよという真っ白いお茶碗を好んだそうです。これを遠州流茶道の特徴として”綺麗さび”と呼んでいます。

竹村:なるほど。侘び寂びが非日常からアプローチしているのに対して、”綺麗さび”は日常の側からお茶に近づいていくようなイメージなのかなと感じました。

小堀:そうですね。ちょうど戦国時代から平和な時代になって、人々が生きることに加えて文化的なことにも目を向け始め、生活の豊かさを求めたという時代背景もあったと思います。そんな中で、”綺麗さび”というプラスアルファが人々に受け入れられたのではないかなと思います。

竹村:加えて、総合芸術家であった小堀遠州さんの美的センスによる部分も大きいのでしょうか。

小堀:すごく理系的に物事を捉えていたのかなと感じる部分もありますね。お茶だけでなく、お庭にも美しさの黄金律のようなものがあると思いますが、枯山水の白い砂の流れで本当はそこに水を流したいけれども、水を流すのではなく欲しいものをあえて引き算して白い石を置くことによって、水の流れを感じる想像力をかきたてられるところも非常に面白い部分だなと思います。

竹村:小堀遠州さんが現代に生きていたら、おそらく今でも総合芸術家としてトップランナーでいらっしゃるのだろうなと。京都仙洞御所のお庭もありますし、東京国立博物館のお茶室「転合庵」も一般公開のときは借りることができますが、遠州さん作のものを見に行くとしたら、近くでおすすめなどありますでしょうか。

小堀:そうですね。東京ですと転合庵が一番お近くですね。直筆の扁額も残っていますので身近に感じられる場所だと思います。

スポーツと茶道

竹村:ここからは遠州茶道13世家元次女としてのみならず、ご自身の様々な活動についても教えてください。

小堀:実は去年までMISTRALという社会人のクラブチームでラクロスの選手を続けておりました。平日は茶道の先生をしながら、土日はラクロスの選手という生活を送ってきましたが、去年のシーズンでラクロスは引退しました。

竹村:2013年にはラクロスのワールドカップ日本代表にもなられていて、まさにトップアスリートでいらっしゃるわけですよね。

小堀:なんでラクロスやってるの?とよく聞かれますが、小堀遠州という人のルーツをさかのぼると武士であり茶人でもあったということで、家族全員スポーツをしていましたから、武家茶人のDNAが入っているのではないかというほどアスリートでしたし、私自身もラクロスをしながら茶道していたのは自分のライフスタイルに合っていたなとは思っています。

竹村:お父様も剣道をされていたそうで本当にそのルーツそのままだなと思いました。

小堀:実は、ラクロスに出会ったことで、私自身、茶道においてやりたいことが決まったんです。それは、アスリート茶会というアスリート向けの茶道の活動です。そもそもなぜアスリートに茶道を伝えようと思ったのかと言いますと、自分自身が2013年にラクロスのワールドカップに出たことがきっかけになっていて、世界との実力差や言葉の壁、審判、気候、様々な壁を感じる中で日の丸を背負うということはどういうことなのか悩みました。その時に大会中にいつでもお茶が点てられるようにお抹茶セットを持っているので、色んな国の人たちにもお茶を点てて振舞った時に、初めて自分を日本代表として認識してくれて、かつ日本文化を外国の皆さんがすごく大切にしてくれたという経験が大きかったのです。これから世界に羽ばたくアスリートの人たちにも、その競技の技術が優れているとか速い、強いということだけではなくて、日本文化も背負って世界で戦っていただきたいなと、そんな思いでアスリート茶会を始めました。

竹村:広辞苑で伝統という言葉を引いてみると「民族社会団体が長い歴史を通じて培い伝えてきた信仰、風習、制度、思想、学問、芸術など。特にそれらの中心をなす精神的なあり方」とあります。つまり、伝統とは現在進行形で続いているものであるはずなのに、伝統という言葉を聞いた時の捉え方が「向こう側の世界」「自分とかけ離れたもの」になってしまっている。今の話を伺って思ったことは、伝統が今にどう生きるかという視点です。表現や発信の仕方も含めてだと思いますが、トップアスリートとしてグローバルで戦っていく中でのコミュニケーションツールであり、ソフトパワーとしての文化という文脈を感じました。実際にご自身のマインドの変化以外に、茶道をやっていて良かったと感じたことはありますか。

小堀:茶道は人と人との感性のぶつかり合い、表現の違いだと思います。お茶室で日常の物、スマホや時計なども肌身から離して、亭主が「こんなお茶碗でお茶を飲んでください」「こういうお花を入れました」「今日はこんなお菓子です」と招いた人をお茶の世界に誘います。そうすると、話の軸が茶道になるわけですね。その日のお茶碗を見て、白くて綺麗だねと感じる方もいれば、浅くてお茶が点てづらそうとか、もっとゴツゴツしているのがいいなあとか、物に対して皆さんが会話をするので、その人の性格とかではなく、その人の感性が凄くわかると言うのが面白いと思います。日常の中だと、AさんBさんCさんがいて、Aさんは性格的にこうだ、Bさんはこうだ、と外に現れる性格的な部分がある一方で、その人の本当の内面や感性は意外に引き出せない。お茶室の中だと、その人が思っていることや感じたことがわかるので、意外にこういう風に思ったとか、この人はこういうふうに感じるという、正解のない感性を表現するというのがすごく面白いと思っています。

伝統文化の進化

竹村:私ども伝統文化協会の一つの目的は、特にビジネスパーソンのような伝統文化と距離がある方々に興味を持っていただくことですが、伝統文化は伝統があるから凄いと言ってもなかなか伝わらないと思っています。日常の中で、自分たちの行動や考え方にどう影響を及ぼすかという視点で伝える工夫をしなければならない。正解がないという話は、今まさにビジネスの世界がそうなっていて、自分自身がどう考えるかが求められているわけですが、それはある種怖いことでもあります。お茶室に入った時に肩書などすべて取っ払われた状態で「あなたはどう感じますか?あなた自身はどうですか?」と突き詰められる。今を生きる上でも、そういう考え方、感性は活きてくるのだろうと感じました。

小堀:一日一日、一年一年が、生きた茶道でないと絶対に440年も続いていないと思うので、必ずその時代に合った生きた茶道を伝えていかないと、明日は廃れ、一年後にはなくなってしまいます。伝統という部分と、伝統だけれども現代に生きる部分を入れながら、というのはすごく気を心がけています。

竹村:そういうチャレンジをすればするほど、ネガティブな反応もあるのではないでしょうか。伝統を背負うと言葉にすれば簡単ですが、ずっと継承してこられた当事者でいらっしゃる皆さんにお話を伺うと、自分の代で潰してしまいかねないというプレッシャーは、我々のような背負うものがない人間には計り知れないものを感じます。その中で変えていくことと変えないことのバランスで、悩みなどあったりするんでしょうか?

小堀:私自身のことでお話すると、私の弟が14代目を継ぐことになっています。家元の立場でやるべきことは必ずありますが、私はむしろ家元ができないことをどんどんやることで、お茶に触れていただいたり、お茶を知っていただいたり、きっかけになればいいと思っています。私自身はプレッシャーというより、家元ができなかったことを私がやってみようというチャレンジする気持ちなので、すごく楽しんで前向きにやっています(笑)。

竹村:そういう意味だとアスリート社会もやってみろよと送り出された感じでしょうか。

小堀:そうですね。私が相談すると家元は基本的にやってみたらというスタンスですね。アスリート茶会の扁額も、お茶会をやるときにこれを飾ったらいいんじゃないかということで、お願いしていませんが家元が書いてくれました。

竹村:アスリート茶会は2014年からもう8年続けていらっしゃる。

小堀:アスリートに限らずすべての人にとって、日常茶飯事という言葉のとおり、ご飯が日常にあるようにお茶が日常にあってほしいと思っています。アスリートの解釈をカタカナのアスリートではなくて、“明日”という漢字に“力”“人”と書いて“明日力人(アスリート)”と私は解釈して、明日に力を与える人、お父さん、お母さん、会社で働いている人、ミルクを飲んでいる赤ちゃん、畑を耕している方、色んな人が明日に力を与えている人だと思うので、そういう方たちがお茶を日常の中に取り入れて頂けることで、ほっと安らぐ、何かに集中できる、ものを大切にする、自分の気持ちに気がつく、そういうことにできればいいなと思っています。

竹村:いわばアスリートの進化版、革新が起こっていますね!

小堀:お茶室を飛び出してお茶をやるということにもチャレンジしています。お茶室に行きましょうとなるとまず何を着たらいいの?となってしまうので、だったら私が行きますよということで、様々なところでお茶会を開催しています。そのなかで、私はお茶を点てる人なので周りにあるものを見立ててお茶をしますが、そもそも物がないとお茶はできないことに気が付き、職人さんにもフォーカスを当てたいと思うようになりました。今、畳の部屋がどんどん無くなっていますが、畳の部屋が作れないのであればテーブルの上に載せてお茶を点てれば、和室ではないけれど本格的にお茶を点てられるじゃないかと。むしろそのためのオリジナルの畳を作ってもらって、伝統工芸品の新しい使い方の提案もできればいいなということで今は動いています。

竹村:畳なのにモダンでもあり、女性視点だとカワイイという声が出そうです。

小堀:畳縁は自由に選んでいて、当家の家紋である七宝花菱の花菱紋を入れたり、もっとポップな紋様を入れたり、ファッションとしても楽しめればというのもあります。仕覆といってお茶碗などにも服を着せるのですが、外でお茶を点てるための魔法瓶の仕覆を組紐で作ることにもチャレンジしています。そうすることで、日常のありふれた魔法瓶という道具が、ただのテーブルであっても少しお茶の世界に近づいてワンランク上の日常生活になる。そんなお茶の取り組みができると思っています。

竹村:利休七則で言っているように、本質的なところを変えずに次世代に向けてどう取り組んでいくか、その一つの体現だと思います。本質を変えずに現代の日常の中でどう楽しんでいくか常に考えられていることが、400年の伝統と次世代に向けた取り組みが融合して、素晴らしい活動をなさっていると感じました。

小堀:小さい時から体験しているのがすごく大事だと思うので、皆さんも子供の時にやりましたっていう人と全くやってない人だと、日本文化に対する反応の仕方が違うというのは思います。

竹村:究極は、炉があってお茶を点てて飲む、それができればどこだろうとお茶ができる。

小堀:そうです。だからこそ、伝統文化に関わっている職人さんの技術も大切にしないと茶道はできないことに気が付きました。もちろん今あるありふれたもので見立てて、誰もができるお茶も提案したいですし、加えて伝統文化の職人の技を知っていただきたいという思いもあるので、お茶室を飛び出して、色んな技術も持ち込んだものをやりたい思いもありますね。

竹村:職人さんの後継問題は、どんな方からも伺います。例えば日本刺繍の方に伺った時も、針を作る職人さんがもういない。刺繍のための針を作る全てが支えられて一つの作品、芸術になっていくわけですからね。伝統文化にあまり触れてない人たちが伝統を次世代に繋いでいくためには、自分なりに参加してみたり、ちょっとしたことに取り組んでみたりすることが必要なのだと思います。

小堀:私自身がラクロスに関わっていたこともあり、世界で初めてのラクロスバーが小伝馬町にありまして、その場所を借りてラクロスの子供達に親子茶会というものを企画しています。小さい時に茶道に触れてもらう。それもラクロスバーというスポーツとの関わりのある空間での企画も実施しようと考えているところです。

竹村:それは定期的に?

小堀:今回初めての取り組みで、ラクロスのご縁で親御さんから自分のお子さんにも茶道を体験させたいと声をいただいて。色んな場所を考えましたが、せっかくラクロスをしているお子さんたちだったらラクロスバーで、という提案をしたら快く受けてくださいました。後日SNSにもUPしますので是非ご覧ください。

竹村:ご先祖様も喜びそうですね。

小堀:本質は変えずにというところで、場所を変えてもやっぱり伝えるところはすごく大切に伝えていきたいと思っています。

竹村:アスリート茶会もそうですし、先ほどの畳やラクロスバーのお話も、お茶だけではなく次に繋げていく、そのための発想力も必要なのだと感じました。総合芸術家である小堀遠州さんが今生きていたら多分同じように色んなことをなさるんだろうと。そういう創造性は、おそらくトップアスリートの方やフロントランナーの方々に教えていらっしゃるという話も伺いました。そういう方々のお茶に対する反応はいかがですか。

小堀:そういう方達はお茶室に招くと、お茶室の空気にまず敏感で、すごくこう背筋が伸びる雰囲気、緊張する雰囲気を感じ取られますね。それから、お茶室での作法は右手でとって左手で受けて一回まわして飲みましょうと形が決まっていますので、まずはそこにはまっていただきます。多様性が大切といわれる時代ですが、自由にどうぞ多様性を発揮してくださいと求められたときに、立ち返るところが無いなかでどこに立ち戻ればいいんだとなる時もあるのかもしれません。そこに茶道の決められた作法にはめられること自体が、逆に居心地が良いと感じる人もいらっしゃいます。型あってこその型破り、多様性の発揮に向かえるのかなと思います。スポーツでも基本動作をまず繰り返し体に染み込ませて、体が自然に動くところまでもっていきますが、同じような心地良さを感じているように思います。

竹村:すごく深いですね。自由だからこそ、自由に対する責任ではないですが、芯が通った何かがないとただ単に放漫というかバラバラになってしまう。先の読めない時代に自分の中に軸や芯を持つ大切さに繋がるお話だと思いました。

小堀:そうですね。私もお茶は自由だと言いますが、そこには型という本質があるところがお茶の強みかなと思います。小堀遠州も色んなことをされていましたが、私も茶道の先生でありながらHIGH FIVE SALADというサラダ屋さんのアンバサダーをしていましてサラダ道を極めたり、趣味でサウナ道も極めて全国のサウナを巡りながらそこでお茶をいただいたり、色んな「サの道」を極めていると言えるのかなと。ひとつのものに縛られず、色んなところから少しずつエッセンスをもらいながら、そこには必ずお茶があるというのが私の生き方だなと感じています。

竹村:お茶の先生をなさっているということで、そちらのご紹介もいただけますか。

小堀:私ども遠州茶道宗家の本部は東京の神楽坂にあります。そこでは家元が監督となって指導をしています。私が主に指導しているのは、学習院大学内にある家元が監修したお茶室「櫻風庵」で、一般開放されている毎週金曜日にお稽古をしています。他にも全国にたくさん遠州流の支部がありますので、お近くでお探しの場合は遠州茶道宗家のホームページをぜひご覧ください。

竹村:ご案内ありがとうございます。最後に何かメッセージをお願いします。

小堀:「満つれば欠くる」という言葉があります。満月の「満」に不足の「欠」です。満月は美しいけれど翌日になると欠けていってしまう、むしろ寂しい状態だと見るのです。その前日の14日目のお月様は、ほぼ真ん丸で且つ明日満月になろうとしてエネルギーに満ち溢れて完璧に近づこうとしている、その姿こそが美しいという考え方です。小堀遠州がつくったお茶碗も真ん丸ではなくて、ほんのちょっと真ん中がへこんでいる。満つれば欠くる、満月の一歩手前の美しさを表現したお茶碗も紋切り型として残っています。完成だけがゴールではなく、目標に向かっている過程こそ美しい。今までも、そしてこれからも色んな挑戦をしていきたいと思います。


対談プロフィール

小堀宗翔(こぼり そうしょう)

遠州茶道宗家13世家元次女。元ラクロス日本代表。2022年まで社会人クラブチームMISTRALに所属。
家元の元で修行後、茶道の普及に努めながらラクロスの現役選手としても活躍。スポーツと文化の融合・発展、アスリートに向けたアスリート茶会など新たな試みで注目を集めてる若手アスリート茶人。
ウェブサイト / Instagram / YouTube

竹村文禅

(一社)日本伝統文化協会会長。
現代、そして未来において、伝統文化が持つ価値をどのように見出し、次代に継承していくべきか。生活者の視点、企業人としての視点で、伝統文化の価値のリブランディングを目指し本協会を設立。

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