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Evolving Tradition in Japan #5 梅若 幸子(うめわか ゆきこ)氏【後編】

Evolving Tradition in Japan #5 梅若 幸子(うめわか ゆきこ)氏【後編】

「Evolving Tradition in Japan」は、伝統文化を担い次代に繋いでいく“人”にフィーチャーしたインタビューシリーズです。様々なジャンルの日本の伝統文化のトップランナーをご紹介していきますのでお楽しみください。

>Evolving Tradition in Japan #5 梅若 幸子 氏【前編】から続く

次世代に伝え、繋いでいく

竹村氏(JCBase):次世代に繋ぐという意味では、ご子息のご活躍が楽しみですね。

梅若:実は、舞台で全治3週間という能楽師あるあるな怪我を経験しまして、その時に本当に能楽師になるんだなと思いましたね(笑)

目利きの存在が文化を育てる

梅若:それはともかく、彼の活動でいうと2つのチャレンジがあります。1つは、能楽だけをやっていて感性が育つかというと難しい部分があるので、当然今必死で能楽をやっているんですが、茶道や日本画など色んな日本のものを感じることによって、日本って何だろう、能って何だろうと考えてもらえるようになればいいなと思っています。もう1つは、いま日本の文化に触れていない人たちに、どうやったら能を面白いと思ってもらえるか。例えば、映像やファッションという切り口で考えているようです。それを親として、プロデューサーとして、どういう形で応援できるかを考えています。

竹村:伝統があるからこその部分と、伝統に縛られすぎず新しいことを模索する部分と、一歩一歩一歩続けて六百五十年、一千年の文化になっていくという本当に気の遠くなる営みをされていらっしゃると感じます。

梅若:ひとつ、竹村さんにお願いしたいことがあります。日本伝統文化協会さんがやっているような活動が、文化の目利きを育てることにつながっていくと思っています。

竹村:そう言っていただけると励みになります。先ほど、ご子息がお茶や日本画に触れて感性を養うお話をされていました。まさに協会の活動は、そういった人を増やしていく活動そのものですね。

梅若:文化の担い手からしても、目利きがいないと自分がやってることが正しいと思い続けてしまう。“それ違うよ“と言ってくれる人の存在がどれほど有難いか。

竹村:観る側と演者と、双方の力量が相まって最高の舞台が完成する。ある種の緊張関係のある状況が理想的なのかもしれないですね。

梅若:心をナチュラルにして楽しむ。まずは、これがベースで良いと思います。そのうえで、知識を前提とした観客と演者のある種戦いのような観方は演者を育てます。“この解釈違うんじゃない?“と上から目線で言われたらイラッとして嬉しくもないけれど“こういう解釈があるんだ“とか“いやそれだったらこういう解釈がありますよね“と語り合える存在だとすると、目利きはものすごく大事な存在です。

梅若:先ほどのコラボの話でも、複数回続くものは初回にだいたいダメ出しが大量に入るんです。本人はすごい頑張ってるからやりきった感満載なわけですが、すごいダメ出しをされて“わかってないなー“と思ってイライラしてるんだけど実際言うこと聞いてみるとその先に視界が開けたりする。後々言われたことが正しかったりするわけです。だからこそ、目利きが育たなかったら文化としてはダメになっていく、それこそとある業界は誰それさんが良いと言ったからと根拠のない忖度が横行している。能楽にそれはいらないですね。

梅若:自身の感性から出てくる「良い」、他の100人が良くないと言っても私はこういう理由で「良い」というものが貴重ですね。そういうふうに言ってくださる方が今すごく減ってしまっている気はします。

竹村:一部の頑張りでは続かないと思います。私自身も含めて、当協会の理念に賛同してくれている人たちと共に能楽や伝統文化を盛り上げていけるようにしていきたいですね。

興味から入り本質にたどり着ける日本文化

竹村:最後に、日本の伝統文化について梅若さんの観点をお聞きしたいと思います。

梅若:様々な文化が色々なところでリンクしていて、どんな興味を入り口に深めていっても多様で複合的に見えてくる、それでいて本質に近づいていける日本の文化のあり様は独特で素晴らしいものだと思います。

竹村:まさにそう思います。かなり独特なうえに、ここまで継続性を保持している文化を持つ国はそうそうないと思っています。

梅若:外国の方もそのことにはすごく興味を持っていますね。それから精神性。日本人にとっては古くから続いていることが普通でなんとも思っていないけれど、外国人にとってはそれ自体に価値を感じる。

竹村:実際に梅若さんのところでも、そういう外国の方向けなど知っていただく機会を作られたりしているんでしょうか。

梅若:能のことを知ってもらった後に、和菓子か刺繍を選んで体験してもらう小学生向けの授業を企画中です。単体を教えるものはたくさんありますが、複合しているものはなかなかないので、能を切り口にしながら複合的にリンクしていることを体感して欲しいという想いで企画しています。

竹村:新しい取り組みの連続で次世代に繋げていく、そのなかで能に限らずですが、リンクしてくる周辺文化も学びながらある意味妄想を爆発させて(笑)精神的な部分や感受性を広げていく。能でいえば、そこから演者と観客の力量が重なり合ってまた次世代に繋がっていく良いサイクルをいかに作っていくのか。それが重要なのかなということを改めて感じました。

竹村:最後にこのインタビューをご覧になっている皆さんにメッセージをお願いします。

梅若:メッセージというか、私自身は自分の中にある程度軸ができてしまっているので、逆に皆さんが何に興味がるのか、何をしたいのかを知りたいです。我が家の会話はほとんど能だったり、能楽の伝承みたいなことも当たり前として危機感を持っているけれど、もっとポップで軽い感じで知るべきことなのかもしれないと思ったりもします。

梅若:皆さんへのメッセージとしては、怖がらず素直な気持ちで感じたことを発してください。不正解はないと思っているので、知りたいこと、聞きたいこと何でも良いと思います。ともかく皆さん楽しんで欲しいですね!

>Evolving Tradition in Japan #5 梅若 幸子 氏【前編】から続く


対談プロフィール

梅若幸子(うめわか ゆきこ)

観世流シテ方能楽師の五十五世 梅若六郎(芸術院会員)の孫、玄祥(芸術院会員・人間国宝)の長女。能楽、クラシック公演の企画制作等、各分野とのコラボレーションを通して次世代にのこしたい音・言葉・舞などの無形文化を伝えるプロデュースや、日本文化に関わる講演活動を行っている。

竹村文禅

(一社)日本伝統文化協会会長。
現代、そして未来において、伝統文化が持つ価値をどのように見出し、次代に継承していくべきか。生活者の視点、企業人としての視点で、伝統文化の価値のリブランディングを目指し本協会を設立。

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