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Evolving Tradition in Japan #3 有職組紐 道明 葵一郎(どうみょう きいちろう)氏【後編】

「Evolving Tradition in Japan」は、伝統文化を担い次代に繋いでいく“人”にフィーチャーしたインタビューシリーズです。様々なジャンルの日本の伝統文化のトップランナーをご紹介していきますのでお楽しみください。

>Evolving Tradition in Japan #3 有職組紐 道明 葵一郎氏【前編】から続く

新しいデザイン

竹村:シンプルな道具立てに職人の技がうまく掛け合わさり、作品に無限の世界を感じ取りました。現代風なものや、昔からある伝統的な図柄まで、いろんな組み合わせがあると思うんですが、いわゆる新作というものはどれくらいの数作られているのでしょうか。

道明:新作は、月に平均すると7,8から10くらいの新しい柄や、カラーバリエーションとか含めて作っています。年間だと百種類ぐらいの図柄を作っている計算になりますね。

竹村:当代になられてから何年くらい経っていますか。

道明:かれこれ8年になりますね。

竹村:ということは、800とか900とか千点近い作品を生み出してるって事ですね。その数字からも、歴史上今が最盛期というお話もうなづけます。

竹村:たとえば織物ですと、元々プロデューサーとしての立場の人、図案を作る人、糸をやる人、織りをする人、色々分担されていますね。組紐の世界では、そういった職人さんの分担はあったりするんでしょうか。

道明:そうですね。図柄を考える人、染める人がいて、あと組む人は専門の職人さんがいます。売り物はこの職人さんたちが組み上げたものですが、道明の社員たちも一通り組めるようにはしています。営業も制作も組紐教室の先生も、全員染めから組みまでできるようにしておりまして、営業の人なんかも販売しながら実演したりとかお客さんに説明するときにも自分で組めると全然説明が違ってきます。

道明:着物は、十人ぐらいの職人さんとかデザイナーで共同作業という感じですが、組紐は一人の人間が全部最初から最後の工程までやれるくらいの丁度いい複雑さがありますね。ちょうどいい手間感と言うか。なので一人の人間が最終的な仕上げまで全部やることは可能ですね。

次世代への展開と組紐教室について

竹村:組紐を広めるという意味では、様々な教える活動、普及活動もされていると聞いております。教室の生徒さんたちも、一人である程度全部組むようなこともされてるんでしょうか。

道明:生徒さんも教室に通いはじめて一年くらいすると、ご自分で図柄や色糸の組み合わせとかも考えてデザインできるようになります。場合によっては染めの講習とかで色糸も自分で染めたものを組み上げて展示会で発表される方もいらっしゃいますね。

竹村:生徒さんでも玄人顔負けのような方もいるんですね。全て一人で完結させて、作品として発表していくということだとアーティストみたいですね。無心になりながらリズミカルに作り上げていって、一つの作品で、かつ自分がすべてプロデュースできるところで、相当はまる方も多いんじゃないでしょうか。

道明:長い方で40年以上ずっと通われてる方も大勢いらっしゃいますし。毎日ちょっとずつでも組まないと調子が悪いみたいな感じの方もけっこういらっしゃいます。

組紐教室

竹村:教室の生徒さんはどんな世代の方が多いのでしょうか。道明さんご自身が若くして当代になられて、次世代に向けて組紐の取り組みや、組紐そのものをどう残していくかという課題をお持ちで、教室の活動にはどういう方々がいらっしゃるのかお聞かせいただけるとうれしいです。

道明:かなり年齢層は幅広く分布していると思います。30代から上の世代の方が多いですが、80代90代の方までいらっしゃいます。若い人でも伝統のものづくりや工芸に興味がある方は、日本の場合いつの時代でも多いと思うんですね。以前は専業主婦の方が多かったですが、今は働いていらっしゃる方が多いので、土日クラスは人気がありますね。

竹村:組紐を知る、興味を持つきっかけとしては、やはり着物という方が多いんでしょうか。

道明:基本的に、教室で作るのは帯締めサイズの組紐を作ることが基本カリキュラムになっています。お着物を着られる方が多いですが、通常のアクセサリーやネクタイといったカリキュラムも近年だいぶ増えました。ですので着物を着られない方でも、組紐をアクセサリーに転用して自分で縫製してデザインしたいとか、またアイディア次第でいろんな用途に使われる方がいらっしゃいます。昔よりだいぶ幅広くなっていますね。

竹村:仏教伝来と共に組紐が渡ってきた当初は、着物のための紐というだけでなく、恐らく様々な装飾として使われていたでしょうし、平安室町においてもおそらく色々な形で使われていたんだろうと思いますね。

外務省のJAPAN HOUSE事業

竹村:組紐を世界に広める活動もされていらっしゃると伺いました。将来を見据えた活動という意味では、どんな取り組みをされているのでしょうか。

道明:組紐というのは、要は紐なので一次元の線なわけですよね。線というのは非常に根源的なものだと思いますので、色々な要素というか可能性があると考えています。二次元の平面、三次元の立体に対して、一次元の線を何に使えるか。できれば結ぶという機能的な側面を最大限に活かせる形を今色々と考えております。

道明:具体的なところでは、外務省のJAPAN HOUSE事業で、LA、ロンドン、サンパウロの巡回展を年末からスタートするんです。先日そのプレ展示を、「Kumihimo by Domyo」展 -The Art of Japanese Silk Braiding- というタイトルで開催しました。

竹村:やっぱり、もはやアートなんですね。

道明:一次元の線の中にどれだけ美しい意匠性を込められるかが、組紐の最大のテーマだと思っています。

道明:展示では、作品だけでなく道具も含めて組紐の要素を美しく見せることを意識しながら、色々と試みています。通常の高台を5倍ぐらいに拡大した巨大な高台を作ったり、木のフレームの中にアーチ型の細い組紐でアーチをつくってみたり、歴史的な古い組紐の復元模造したものを並べたり。あるいは、アクリル製の丸台に紐をかけて空中に組紐が浮いているかのように見せたり、組紐のサイクロイド曲線みたいものを作ったりとか、これは台自体が非常に綺麗で思いもかけない効果が出たんですね。生徒さんも「この台ほしいわ」なんていう方がたくさんいます。

道明:本番の展示では、規模がさらに3倍ぐらいになりますが、それを3カ国巡回してまずは日本の組紐というものを世界に対してPRしたいと思っています。

竹村:もっともっと多くの方に組紐の魅力を知っていただけると良いですね。

道明:組紐は織物に比べるとそこまで馴染みがないかもしれませんが、その中には、あらゆる歴史や文化、社会の動き、時の権力者によって使われてきた用途があったり、構造、素材あらゆるものが込められています。組紐を語ることによっても日本の歴史の流れがある程度語れてしまうくらいの工芸だと思っています。是非これを機に組紐にも着目していただければ幸いです。

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KUMIHIMO by DOMYO展

2021年12月から2022年にかけて、 JAPAN HOUSE LOS ANGELES、同 LONDON、同 SAO PAULOという海外3館への巡回を予定しています。日本では展示は、2021年3月13日(土)、14日(日)の2日間、東京都千代田区の「アーツ千代田 3331」にて開催されました。


対談プロフィール

道明葵一郎(どうみょう きいちろう)

昭和53年6月15日生まれ
1997年 私立武蔵高校卒
2001年 私立早稲田大学理工学部建築学科卒
2004年 同大学院卒
2005年 道明葵一郎一級建築士事務所を主宰
2012年 株式会社道明代表取締役に就任
組紐の新しい可能性を追求した設計、制作を行うとともに、各地の歴史的組紐の調査と復元模造にも従事する。
ウェブサイト / Instagram / YouTube

竹村文禅

(一社)日本伝統文化協会会長。
現代、そして未来において、伝統文化が持つ価値をどのように見出し、次代に継承していくべきか。生活者の視点、企業人としての視点で、伝統文化の価値のリブランディングを目指し本協会を設立。

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