「Discovery Tradition in Japan」は、様々な形で伝統文化と関わりのある方にお話を伺うインタビューシリーズです。活動やその裏にある想いから伝統文化の輪郭に迫っていきます。ジャンルにとらわれずご紹介していきますのでどうぞお楽しみに。
さまざまな形で伝統文化に関わる
竹村氏(JCBase):本日は伝統文化の継承と未来について3名の方にお話を伺います。学生団体とらくらの代表として活動されている佐伯さん、当協会に学生ボランティアとして参加している果林さん、当協会理事で社会人プロボノでもある高橋さんです。
佐伯葉奈氏:伝統工芸とらくら代表の佐伯葉奈です。私は伝統工芸を世界と若者に伝える活動をしておりまして、2022 年は全国25 工房、2023 年以降を含めて40 工房に(×2012 年は全国25 工房、2013 年以降を含めて35 工房に)、若者に直接取材に行ってもらい、記事を書いて工芸の魅力を発信するという企画をしています。とらくらメンバーは大学生で構成されていて、全部で15 人から20 人くらいです。これを行う理由としては、若者に伝統工芸を伝えるだけではなくて、実際に見て触れて体験してもらうというコンセプトを掲げていまして、実際に工芸好きの仲間と繋がる、さらに机上の勉強で工芸を知るのではなくて、実際に体験するのと、最後に工芸のイメージを親しみやすいように自分たちがSNSを使って発信するという活動を行っています。
果林氏(JCBase):私は現在、日本の大学4年生に在籍しておりまして、大学では日本研究を専攻しています。2022年から2023年にはイギリスに交換留学をしていました。日本伝統文化協会の活動に参加させて頂いているのですが、きっかけは、大学が国際的な大学で、色々な国から来ている学生と喋っているうちに、自国の文化をしっかりと学んで会話できるようになりたいと思うことが多くなり、活動しながら伝統文化を学べる場がないか探した結果、JCBase(協会)に出会って参加させて頂いています。
果林:協会では、歌舞伎のイヤホンガイドの方と歌舞伎や文楽の楽しみ方を伝えるトークラジオの発信をしていまして、個人的には、祖母が着付けの先生で着物を少し練習したりお茶を習ったりしています。
高橋裕氏(JCBase):私は会社勤めをしながら、プロボノ(社会人ボランティア)として自分のスキルを非営利活動に活かして貢献するということでやっています。会社の中でも日本文化の愛好メンバーを集めて社内サークル活動もしています。と言いながら、私自身は伝統文化に子供時代から馴染んでいたわけではなく社会人になってからたまたまご縁があって茶道に少し触れる機会があり、それを入り口に日本文化の奥深さや課題を知る中で、私のような普通の社会人が日本文化に触れる機会はニーズも意義もあると考えて、伝統文化協会を設立することになりました。
日本のメディア発信と文化継承
竹村:ひとことで伝統文化と言っても、皆さんなりの考え方があると思っていて、それぞれの意見を伺って輪郭を浮かび上がらせたいと思います。佐伯さんは、学生エバンジェリストアワードという賞を受賞され、そのときのプレゼン動画でまさにその思いを語られているそうなので拝見したいと思います。
(以下動画)
https://youtu.be/_arHZm9lf64
佐伯:私は世界中を巻き込んで日本文化を継承したい、そのきっかけづくりのプロになりたいと思っています。現在3つの活動を行っていて、1つ目は学生団体とらくらの代表、2つ目はアイヌ研究、3つ目はニュージーランド国立ワイカト大学への留学です。学生団体とらくらは、伝統工芸の魅力を若者と世界に発信するという学生団体で、作り手の情熱に直接学生が触れること、さらには若者の力で工芸業界を盛り上げるためにはどうしたらいいかという視点で、遠方取材企画を実施しています。具体的には、取材先をZ世代が惚れた工芸品大賞として認定し、トロフィーを贈呈するという企画です。去年は1年間で全国25工房を回り、様々な職人さんから多くの温かいお言葉を頂くことが出来ました。このようにして私達学生に出来ることは何か常に考えながら活動しています。
佐伯:そんな中でアイヌ文化との出会いがあり、かつて差別が長く続いた歴史があったことしか知らなかった私は、アイヌ工芸の緻密な技術とその背景に強く惹かれ、もっと勉強したいと思い、実際に現地に出向いてアイヌ文化についても勉強してきました。さらに、アイヌ民族とマオリ民族がかつて文化交流をしていたことを知り、マオリについて調べてみると、マオリ民族のいるニュージーランドはマオリ文化が日常に凄く浸透していることを知りました。私達も何か継承のヒントを得られるのかもしれないと思い、気がつけば私は今ニュージーランドにいます。
佐伯:現在、ワイカト大学のマオリ学部でマオリ文化を勉強しており、日常のあらゆる場面でいかに文化が浸透しているか肌で感じています。多くのメディア、CM、ニュージーランド航空の機内安全動画にもマオリ文化のエッセンスが様々に散りばめられ、メディアによる文化継承の可能性を凄く感じています。一方で、日本政府はメディア発信にあまり重心を置いていないと感じています。令和2年度の報告書によると、文化庁の予算は政府予算全体の0.1%しか計上されていません。令和5年度の文化庁概算要求では、メディア分野の予算が全体予算の0.8%となっています。対して、イギリス、韓国、ドイツといった国々は、近年メディア分野に充てる予算が大きな割合を占め始めています。日本はもっとメディア発信に力を入れるべきではないでしょうか。
佐伯:この問題の具体例として、東京オリンピック2020年開会式があげられます。日本の魅力を十分に発揮できなかったと世間では多くの声が上がりました。私はイギリスと日本のクォーターで、幼い時から自分のアイデンティティに悩むことがとても多く今でも自分が何者かまだ分かっていませんが、一つ確かなことがあります。私の将来の夢は東京オリンピックで演出を手掛けることです。具体的にはリオオリンピック閉会式のRio to Tokyoのようなコンテンツを作り、かっこよく日本文化を発信しながら、世界中、そして日本中を熱狂させたいです。そのためには文化の魅力をいかに上手く引き出すかだと思っています。私は様々な文化に自分の身を投じ、文化を内側と外側から眺め、そして、現地の人々の息遣いを経験することを大切にしています。今、日本人が日本の文化を継承する時代は終わっています。文化が含む純粋な美しさ、かっこよさをメディアを通して世界中、そして、日本中に発信することで文化の担い手を増やす、そのきっかけづくりのプロに私はなります。世界中を巻き込んで日本文化を継承します。
竹村:この動画はどういう場面で創られたのでしょうか。
佐伯:学生エバンジェリストアワード2023という大会で、今までの自分の活動を発信してみようということで、留学中に急いでプレゼン動画を作って、応募したものです。結果はグランプリと富士通賞の2つを頂きました。
竹村:単純に日本の中で伝統文化のかっこいいところを海外も含めてアピールしていくという時に、伝統という言葉に対して、海外の方のイメージすることと我々日本人がイメージすることも違いそうです。佐伯さんはどのようなイメージを持っていますか。
佐伯:伝統文化にも色々な歴史があって、例えば工芸でも、お殿様の贅沢品として創られた歴史もあれば、民芸として庶民化し大衆に広がった歴史もあります。結果的に伝統と言われるものは、今に続いているものであって、昔から何か大事な軸がありつつ形を変えて現代に繋がっているものだと思っています。
伝統文化の捉え方
竹村:果林さんは、イギリス留学をされていて、イギリスも伝統のある国だと思いますが、日本とイギリスとの違いは感じますか。
果林:若い世代からするとどうしても固いイメージがあるのは両国に共通しているかなと思います。私自身も日本人ですが、伝統と聞くと限られた人だけが関わるものというイメージを持ってしまいます。イギリスに関して分かりやすいところだと、階級文化が今も残っていると感じます。そんな中でも、イギリスは早くからメディアを活用して、自国文化を海外に輸出し盛り上げることに政府を含めて力を入れていると感じます。それが翻ってイギリス国民にも浸透している部分があるのかなと、文化施設などに訪れると感じます。
果林:それこそ若い子達も、バレエから音楽や美術、アートが好きな子は美術館とかアートが有名な街に繰り出したりだとか、自分が本当に好きな界隈に行って楽しむようなことが結構あって、浸透しているということを感じました。ニュージーランドではどうなのでしょうか。
佐伯:ニュージーランドは、マオリ民族がもともとアオテアロアという国を建国したのですが、イギリスが入植してきて、ニュージーランドという名前に変わってしまいました。それが、ここ最近50年くらいで、マオリ民族の文化を復活させようという動きが出てきて、私が留学しているWaikato大学にはマオリ学部があります。また、教育機関としてもマオリを勉強しようという動きが出てきていたり、マオリの儀式を復活させるために、マオリの元旦の時はフェスティバルがニュージーランド中で行われたりしています。
竹村:イギリスの植民地という話がありましたけれども、伝統が途絶えたことによって、逆にその伝統に対するリスペクトと言いますか、アイデンティティを求めていくというのが、今のニュージーランドであるのに対して、日本は、せっかく続いているのに伝統のイメージが固いままで、見つめる機会が少ないというようなことがあるのでしょうか。高橋さんは社会人として、企業で勤める中で、伝統文化というものがどう捉えられていたり、もしくは高橋さん自身がどう感じていらっしゃるのか、ご自身の観点からお話頂けますか。
高橋:私が勤めている会社にも、海外とやりとりする事業部があります。特に欧州は、歴史があり、自国文化に誇りを持っている人達も多いと感じますね。一方で、日本人の側がそういう人達と接する中で、日本の文化を語るのが難しいという話も聞きます。日本は海外から見ても長い歴史ある国というイメージもあるので、日本文化のエッセンスを自分の口で語れることが求められる経験をして、そこから課題意識を持つようなビジネスパーソン、特に海外と接点があるような方はそうなのかなと思います。
高橋:私自身が伝統をどう捉えてるかですが、先ほどの佐伯さんの話にも少し繋がりますが、私も変化し続けながら今に続いていることが一つのポイントだと思っています。加えて、それが周りからも価値として認められ続けていることですね。例えば、国宝とか重要文化財も伝統文化の一つだとは思いますが、ある時点で止まっているものは、それを創り続ける技術とか材料とか、周辺の色々なものが営みとして続いていかないと、伝統としては死んでいってしまうのだろうなと思っています。それが、現代と次の時代の価値としてどう繋がっていくのか、協会の理事として活動するなかでも大きなテーマと感じています。
佐伯:営みという観点でみると、文化は遊びから発生してきた側面があると思っています。例えば、郷土玩具が伝統工芸になったりとか、子供のおもちゃから始まった工芸とか、文化の営みが手遊びなどから始まっていると考えると、もっとワクワクしたカジュアルなものなんじゃないかと思っています。現代の工芸も、学生が思うイメージですと、工芸品は富裕層が買うような固いものイメージかもしれませんが、私は工房取材を通じてそうではないと気づきました。暮らしを支える用の美としてもっとワクワクするものであるのに、おそらく創る側も、受け取る側も、どちらも固いものであるというステレオタイプがあるのだろうなと思っているので、もう少し伝統をカジュアルなものとして受け取ることは凄く必要なことだと思っています。
若い世代に伝えていくには
竹村:佐伯さん自身学生として、さらに学生をターゲットとしたメディアであるとらくらを立ち上げて活動をしながら、伝統を次世代に繋げる、特に若い世代に伝えるときに日本伝統文化の特有の難しさや課題はなんだと思いますか。
佐伯:とらくらいう団体を運営するにあたり、必要なのはやはり資金ですが大変です。私達の学生団体は、学生に負担を強いることはしたくないと思っていて会費を取っていません。理由としては、取材に行くまでに交通費や宿泊費などがかかりますが、それよりも取材に行った先の現場で工芸そのものにお金を落としてもらいたいという想いがあります。出来るだけそこに辿り着くまでの費用は、団体側で負担したいなということで、クラウドファンディングにチャレンジしたり、スポンサー企業の方にメッセージを送ったりなどやっていますが、やはり持続性を持たせるためには、ワクワクだけではなくビジネス・お金の文脈は凄く必要不可欠だと最近改めて気づきました。そこが悩みでもあります。
竹村:次の世代の下級生にバトンを渡しながら継続していく難しさはありますね。高橋さんも非営利型の社団法人としての運営をされているわけですが、伝統文化をターゲットに活動していくことの大変さはどんなところでしょうか。
高橋:継続性という意味では、究極は自分が居なくなっても、属人的にならずに理念ベースで続けていくことですよね。そこにプラス活動の楽しさがあって、人が人を呼ぶように集まって盛り上がっていくというのが理想型です。それはわかっていますが、佐伯さんと同じように悩みながらやっています。そんな中で、果林さんがたまたま私達の協会を見つけてくれて大学生ボランティアとして参加してくれました。最近は、プロボノという経験のある社会人が自分のスキルで非営利活動などに貢献するということも珍しくなくなってきました。我々協会でも継続的に理念に共感して参加したいと言って下さる方がいます。
佐伯:共感の輪ですよね。伝統文化を扱っているとらくらの中にも伝統があって、その伝統をどう繋げていくかということは、やはりとらくらの活動に共感して、一緒に情熱を持ってくれる人の輪をじわじわ広げることが大事です。それは日本文化全体にも言えるのかなと思っています。かっこいい、かかわいい、おしゃれ、奇麗、という共感の輪を増やしていって、実際に使ってみて、使いやすかったとか、そういうことを通じて、知ってくれる人を広げて、貢献者を見つけていくということは、とらくらの団体としてもそうですし、日本文化全体としても、世界の文化全体としても言えるのかなと思ってます。
竹村:とらくらの体験を通して、実際に工芸に触れたり、職人さんと話をされて、学生さん達の意識の変化は相当なものなのでしょうか。
佐伯:つい3日前に、鹿児島の遠方取材をしたグループが、2泊3日で16工房ぐらい回ってくれたのですが、ほとんどのメンバーは工芸を知らない状態でした。日本文化に興味があるけれども、一歩の踏み出し方が分からなかった子達で、実際に学習者として仲間と一緒に工房に行って、職人さんの話を聞いたことでより身近になりましたし、職人さんの情熱を直で見たことでエネルギーを貰ってキラキラして帰ってきました。
早期に文化に触れる重要性
竹村:まず、触れる機会が圧倒的に少ないということなんですね。果林さんは日本伝統文化協会で、お芝居トークラジオですとか、協会会員の方達と伝統文化について会話する機会もあると思いますが、自身の身近とのギャップも含めていかがですか。
果林:イギリス留学中にヨーロッパを広くまわってみて思ったのは、文化の魅力に気づくきっかけとなる機会が多いなということです。例えば、イギリスですと、美術館は全員無料で入れますし、オーケストラや歓劇などにも触れられる機会があって、カジュアルに最初からそういうものを経験出来る環境があります。私が感銘を受けたのは、幼稚園生や小学校の子達が、その国で一番大きいナショナルギャラリーのような美術館で、座りながら絵について感想を言ったり、スケッチをしたりとかをしていることでした。日本だと、美術館では静かにしていなければならないですし、子どもはちょっと、みたいな雰囲気を私は感じることがあったのですが、そういうことが本当に無くて、出来るだけ子供達に見せてあげたいという雰囲気がありました。
果林:小さい頃から伝統文化が身近にあって、いつでも触れるきっかけが転がっているということが凄く大きいですし、それによって自分達の審美眼が育まれると思います。その子達が大人になって、お金を持った時に、ある作品が高くても何で高いのか理解出来て、それにお金を出して、ある意味投資するという価値があることを理解出来る大人になる。それには、小さい時から触れていることが大事だと思います。
竹村:最近は、小学校でも必須教育の中に日本文化を学ぶプログラムが入ってきているようですが、知る機会が少ないですし、触れようとした時に、例えば日本文化の美術館とか博物館を含めて、どこに何を見に行けば良いのかまだまだわかりにくいのでしょうね。
佐伯:果林さんのお話を聞いて思いましたが、私はニュージーランドのマオリ民族のカパ・ハカという伝統的民族舞踏に週一で通っていて、使っている楽器は普通にギターなんです。実は伝統的な楽器があるんですが、それを使わずにギターを使って歌の練習をしていて、歌も歌詞がネットで見当たらないので、友達にその歌詞をどこで見つけたのと聞いたら、これはオリジナル曲でみんなが好き勝手に作っていると言われて、自分達で曲を作ってるのは凄いと思いました。日本だと、これは果たして伝統なのかとツッコミが来るかもしれません。若者が新しく変えられる部分もあり、掛け声などは昔ながらのマオリ民族の掛け声を使っていたりしていて、伝統と新しいものとのボーダーラインが曖昧で、それはそれで新鮮で良いなと思っています。自分達で伝統を創る機会がニュージーランドには学校教育の中にあるので、見て、触れる、そして、実際に創る主体者として、活動しやすい環境があるということは伝統を引き継ぐ上で凄く大事だと思いました。
伝統をつなぐ活動者の視点
竹村:故人ですが、森川如序春庵というお茶人がいまして、彼が16歳の時に、お茶会で気に入った本阿弥光悦の時雨というお茶碗を、これは素晴らしいと言って、父親に買ってくれとねだったというエピソードがあります。16歳であろうと良いものを良いと思える、感性に年齢は関係ないということです。年齢ではなく、自分なりに伝統や文化と向き合うことが大切なんだと皆さんのお話を伺いながら改めて思いました。
竹村:最後に、今回のテーマである「継承と未来」について、皆さん自身のヒントはありましたでしょうか。知る機会、触れる機会、具体的にどういうことをすれば、次世代に継承され未来に繋がっていくのか、それぞれ伺っていきたいと思います。
高橋:協会の活動をしている中で、日々考え難しさも感じていますが、一つのポイントは普通の一般人、普通の生活者が良いと思うもの、例えば日常で着物を着るというようなことが、少しずつでも増えてくるということをどう作り出すかだと思っています。最近、私は美濃焼きでできた陶芸のストローを買いました。伝統の技を使いながらも、鑑賞用ではなく使うためのものです。鑑賞用も必要ですが、日常に取り入れられるものをどう増やし、知る機会、触れる機会を生み出していくのか、それに貢献する発信なり体験の場をつくる活動を行っていきたいです。
果林:高橋さんが仰ったように、ちょっとしたアイテムを取り入れてみたりだとか、現代は安くて色んなものを買えるような世の中ですが、そこで自分が良いなと本当に思ったものを自分をアップグレードさせるために買う。例えばそこから焼き物の歴史や作家との繋がりを感じたり、ロマンというか心の持ちようをアップグレードすることが文化に触れる楽しいところだと思ってます。そこに年齢は関係ないですよね。自分で楽しみたいところに入って、色んな人と交流して輪を作っていけると良いと思います。日本には工芸がたくさんあるので、国民がそういうものを盛り上げる、イメージ的には江戸時代じゃないんですけど、庶民が自分達のありふれたものをブームに合わせて作って、それをみんながどんどん楽しんでいって、それがちょっと粋だよねみたい思えてくるような雰囲気が出来てくると、老若男女問わず楽しむことが出来て、国としても明るくなってくるとのではなと思います。
竹村:自分の心をアップグレードするというマインドは大切ですね。何でも安く手に入る、物は溢れている、情報も溢れている中で、自分を再度発見したり、脈々と続いてきている伝統文化の素晴らしさが自分にとっての糧になるということは素晴らしいですよね。伝統文化側の発信の仕方は、それはそれで重要なことですけれど、一個人としての受け手のあり方も重要なことで、両輪で広がっていくんだなということを今のお話で感じました。
佐伯:私達が出来ることは、伝統を継承する上で2つの役割に分けられると思っています。職人さん側の後継者になるのと、学習者として受け取る側になる、この2つの立場があると思っています。そして、私達はそれを繋げる媒体として、学習者として工芸を学びながら、もっと学びたいと思う人を増やしていく立場だと思っています。学習者が増えれば増えるほど、後継者側の立場にも興味を持つ人が増えて、相互作用的にどんどん広がっていくと考えています。
佐伯:学習者というと固いイメージがありますが、例えばアイヌ民族でしたら、ゴールデンカムイというアニメが凄く話題になっていて、そこからアイヌ語やアイヌ文化を漫画を通して知って、アニメを入り口として、アイヌ文化に興味を持って北海道に勉強しに行く人が増えています。浅草で若者向けの着物レンタルが流行っていて、特にフリフリのレース生地の着物が凄く流行っているのですが、従来の着物とは全く違うものなんですけれどでも、映える映えるとインスタに載せていたりしています。可愛いとか、話題性があるとか、おしゃれだなという気持ちが学習意欲に繋がって、どんどん盛り上がっていくと、今度は継承側に立ちたいという気持ちになるので、可愛いな、ワクワクすると思ってくれる人を増やすことが大切ですし、自ら増やそう増やそうとしなくても、自分達が楽しくレース着物のサービスを享受して楽しいなって思うだけでもその輪は広がっていきますよね。
竹村:ワクワクというキーワードが何度か出てきましたね。人は美しいなとか、ワクワクするな、みたいなところがあるからこそ好きになっていけますよね。それだけの魅力が伝統工芸だったり伝統文化の中には多分あって、せっかくだからそんな楽しいものを探していこうよ、見つけていこうよというのがみんなの共通認識なのかなと思っています。皆さんのお話を聞いていると、伝統文化という一つのものに取り憑かれて、楽しいからこそ、どんどん奥深いものが見えてきて、どんどん虜になってるんだなという、文化への愛を皆さんから感じさせて頂きました。最後に一言ずつ、今日の感想と読者の皆さまへのメッセージをお願いします。
高橋:改めて ”なるほど” と思ったのは、私たち伝統文化協会は30-40代のビジネスパーソンをメインターゲットに活動していますが、伝統文化の「価値」と「楽しさ」「ワクワク」という部分をどうやって一緒に織り込んで伝えていくのか、どうすれば伝わっていくのかという視点をもらったなと思います。ありがとうございました。読者の皆様に対しては、皆さんの身近にも伝統・文化として意識していないものがあるのではないか、そういう視点で日常を見つめ直してみると日々の営みの意味が変わってくるのではないかなと思います。
果林:同世代の方と一緒にお話しすることもできて凄く楽しかったです。私ももっと自分で切り口を見つけて活動していきたいと思いました。私自身、ヨーロッパに直接触れましたが、そういった文化が溢れている国がある中でも、日本はさまざまな文化が本当に奥深いものばかりで、ポテンシャルを感じます。さらなる発信の余地もありますし、色んな国を越えて、色んな人に愛されるんだろうなと凄く感じましたので、自分も若い世代として、もっともっと楽しみながら取り組みを広げていきたいと思います。
佐伯:このような機会を与えて下さり、本当にありがとう御座いました。活動を続けるうちに、自分の中での伝統の定義も徐々にアップグレードされていますし、こういう対話を通して、気づく点も沢山ありました。とらくらは、伝統工芸を若者に伝えているプロ集団として見られることが結構ありますが、私達も一緒に学んでいるという感覚があります。楽しい、好きという感情は、誰にとっても一番強くて、好きだから活動している人には敵わないので、そういう人達を増やして、友達を増やして、活動していきたいと思います。
竹村:どんどん日本の伝統文化のファンを増やしていきたいですね。とらくらの活動も皆さん是非一度チェックしてみてください。今日はありがとうございました。
対談プロフィール
竹村文禅
(一社)日本伝統文化協会会長。
現代、そして未来において、伝統文化が持つ価値をどのように見出し、次代に継承していくべきか。生活者の視点、企業人としての視点で、伝統文化の価値のリブランディングを目指し本協会を設立。