政治史における安土桃山時代は、1573年の室町幕府の滅亡から1603年の江戸幕府開府までの30年間。この30年間に花開いた、日本美術史上もっとも豪壮で華麗な「桃山美術」を中心に、室町時代末から江戸時代初期にかけて移り変わる日本人の美意識を数々の名品によって紹介する特別展「桃山ー天下人の100年」が開催されます。
戦国の幕開けを象徴する鉄砲伝来が1543年、島原の乱鎮圧の翌年、ポルトガル船の入国を禁止し、鎖国が行われたのが1639年。豊臣秀吉が北条氏を滅ぼし天下統一を果たした1590年が、その100年間のほぼ中間地点といえます。安土桃山時代を中心として、日本は中世から近世へ、戦国武将が争う下剋上の時代から、江戸幕府による平和な治世へと移り変わります。本展は、室町時代末から江戸時代初期にかけての激動の時代に生まれた美術を概観し、美術史上「桃山時代」として語られるその美術の特質を、約230件の優品によって紐解きます。
変革の時代を語る「桃山美術の教科書」ー天下人の100年に迫る
室町末から江戸初期までの激動の100年間、この時代の美術が、何を受け継いで誕生し、後世にどのような影響を与えたのかを、教科書でも知られる戦国武将や茶人、文化人など有名人ゆかりの絢爛豪華な作品で検証します。政治とともに美術も変革の時代であったことが一目瞭然となることでしょう。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康。天下の覇権が争われた時代の富と権力を誇示するたくましい造形から、平和な時代に適した優美で瀟洒な美への展開を、名品によって分かりやすくご紹介しています。
絵画では、狩野元信から孫の永徳、その孫の探幽。永徳のライバル長谷川等伯や海北友松、雲谷等顔による障屛画や、江戸時代初期の風俗を写した風俗画。上杉謙信や豊臣秀吉、伊達政宗など戦国武将ゆかりの武具甲冑。千利休や古田織部ゆかりの茶道具の他、高台寺蒔絵や南蛮美術など、様々な分野の時代を代表する作品約230件。全国を駆け回らないと見ることのできない作品が一堂に集められており、見ごたえたっぷりです。
第一章 桃山の精髄―天下人の造形
室町時代末から江戸時代初期にかけての都の移り変わる姿を描いた「洛中洛外図屛風」をプロローグとして、狩野永徳や長谷川等伯に代表される安土桃山時代の画家たちによる豪壮華麗な障屛画、志野や織部に代表される意匠性優れた桃山茶陶、戦場でひときわ目立つ戦国武将の甲冑、高台寺蒔絵や世界へと視野を広げた南蛮美術など、安土桃山時代を特徴づける美術品の数々によって、天下人が夢を追い求めた黄金の時代の造形が並びます。
第二章 変革期の100年―室町から江戸へ
室町時代末から江戸時代初期にかけての100年の間に、美術の表現はどのように変わっていったのかを比較しながらご覧いただきます。天皇や信長、秀吉、家康の書、室町幕府第13代将軍足利義輝から家康までの肖像画、同じテーマで描かれた絵画、貨幣や鏡などを比較しながら見ることで、移り変わる時代意識と美術表現の関係を感じ取ることができます。
第三章 桃山前夜―戦国の美
きらびやかで力強いといわれる桃山文化ですが、その土台は室町時代に築かれました。禅宗寺院の大画面障壁画、京を描いた洛中図、輸出品として人気を博した金屛風などの数々。 それまで天皇や将軍などを中心に儀礼と格式を重んじ展開されていた文化活動は、応仁の乱を契機に各地の戦国大名へと広がり、彼らの志向を加味する形で変化していきます。本章では室町時代末期の古典的な美の姿を確認しつつ、やがて訪れる桃山文化への萌芽を探ります。
第四章 茶の湯の大成―利休から織部へ
覇を競う武将たちや富を得た町衆が、こぞって「名物」と呼ばれる高価な茶湯道具を求めた時代。そこにあらわれたのが、天下人織田信長、豊臣秀吉の茶頭をつとめた千利休(1522~91)でした。利休は流行にとらわれることなく、自らの眼で心にかなう道具を選び、新たな道具をつくり出します。唐物や名物を第一とする風潮に鋭く厳しい姿勢で切り込んだのです。こうした利休の精神は、古田織部(1544~1615)ら後継の人びとに大きな影響を与えていきました。本章では天正から慶長年間にいたる時期に注目し、利休と織部ゆかりの名品、そして激動の時代をたくましく生きた人びとの心を映すような力強い造形が魅力の「桃山茶陶」をえりすぐって紹介します。
第五章 桃山の成熟―豪壮から瀟洒へ
秀吉に重用され画壇を牽引していった狩野永徳の威圧的な絵画表現は、戦国武将たちに好まれ、安土桃山時代の絵画様式そのものとなりましたが、後継者たちは、力を誇示する豪放さから離れ、優美で自然な調和を重んじた美の世界を作り出していきます。自由奔放な近えの信伊(このえのぶただ)から俵屋宗達下絵による本阿弥光悦への書の展開にも同じことが言えます。やきものもまた、偶然性のある力強い造形からデザインされた美しさへと進んでいきます。 人々が生き生きと暮らし、傾奇者が闊歩する姿を主題として風俗画が誕生したのもこの時代でした。
第六章 武将の装い―刀剣と甲冑
安土桃山時代は常に戦闘があった厳しい時代ともいえます。それゆえ、打刀や当世具足が普及するなど、生死を決する刀剣や甲冑は新たな展開を見せ、これまでにない武器や武具が流行しました。また、実用性だけではなく、さまざまな装飾や工夫で地位や風格のある表現が加えられ、江戸時代になると武家の格式を象徴するものとして受け入れられていきました。 本章では、単なる華やかさや奇抜さでは片づけられない、武将たちの「生死をかけた装い」をご紹介します。
第七章 泰平の世へ―再編される権力の美
大坂夏の陣で豊臣氏を滅ぼした徳川家康のもとで、元和元年(1615)、戦乱の時代は終わりを告げます。文化や美術は、一朝一夕に変わるものではない一方で、確実に時代の変化を反映しています。ここでは、江戸時代の武家の美術が、桃山美術の表現を母体としながら、室町時代の伝統的価値観を再編した徳川幕府の秩序にもとづいて誕生したことを、二条城大広間の襖絵をはじめとした、格式高い作品によってご覧いただきます。
●開催概要
展覧会名 | 特別展「桃山―天下人の100年」 |
会期 | 2020年10月6日(火)~11月29日(日)前期展示:10月6日(火)~11月1日(日) 後期展示:11月3日(火・祝)~11月29日(日)※事前予約制 |
会場 | 東京国立博物館 平成館[上野公園]〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9 |