JCbase

文化を知り、つながり、伝える ― 中南米の日系社会研修

文化を知り、つながり、伝える ― 中南米の日系社会研修

伝統文化のライバルはテーマパーク?

テーマパークと伝統文化の行事があったら、みなさんはどちらに参加しますか?そんな問いかけから研修会はスタートしました。
この研修会の参加者は8名で期間は2026年5月14日~6月18日で、なんと1か月間の日本の滞在!そんな1か月の滞在でテーマパークに行ってみた方はわずか1名!なんということでしょう。日本文化コーディネーターの研修でこられているからでしょうか?

参加された方は、アルゼンチン、ブラジル、コロンビア、キューバ、メキシコ、ベネズエラから来られた方々です。
中南米には、戦前・戦後の移住者によって形成された日系社会が存在し、現在も日本祭りやスポーツイベントなどの文化活動が盛んに行われています。しかし、世代交代が進む中で、日系団体の高齢化や若年層の参加減少が課題となり、運営やイベントを担う人材不足が深刻化しています。

こうした状況を踏まえ、日本文化や歴史への理解を深める講義や視察を通じて、文化継承・普及に向けた活動やイベントの企画運営に必要な知識と技術を習得する研修会が、JICA横浜にて実施されました。
研修会の内容は、お祭りの運営についての座学、お祭りへの参加、盆踊りの体験、折り紙ワークショップ、京都の寺社仏閣の視察など様々です。一般社団法人 日本伝統文化協会では、2026年6月16日に研修会の締めくくりとして「日本文化の継承」というテーマで研修会を担当させていただきました。

1か月の研修で最も興味があったことをお聞きすると、よさこいの体験、神輿を担ぐ体験、お祭りの運営、神社仏閣の見学、茶の湯体験、お寺の庭など。みなさんとても楽しそうにお話してくださいました。

日系社会と日本国内が直面する「同じ壁」

中南米でも、「若い人が参加してくれない」「メンバーが高齢化してきている」のような言葉は、日本国内の団体でもまったく同じように聞こえてきます。地域が違っても、文化が違っても、抱えている課題は驚くほど似ているんですね。
一方で、研修参加者からは、海外の方は日本文化に興味を持っている人が多く、海外でももっと知る事ができる方法があるとよいのにとのことでした。
日本文化も海外の方に興味を持っていただけるなら、文化を継承する一助になっていただく仕組みがあってもよいのかもしれないと感じました。

娯楽 vs 日本の伝統文化

さて、冒頭の「テーマパークと伝統文化の行事を比較した場合」の問いかけについては、日本では多くの方がテーマパークに行ってしまうという現状がある、というお話をさせていただいたところ、苦笑いをしつつも、みなさん大きく頷いていました。

現代は、動画やSNS、テーマパークなど、気軽に楽しめるものが身近にあふれています。そのぶん、伝統文化が日常の中に入り込む余地はどんどん小さくなり、日本に暮らしていても、伝統文化に触れる機会は昔よりずっと減ってしまいました。興味を持つきっかけが少なければ、文化を支える人が育ちにくくなるのも自然なことです。

ただ、伝統文化はただ古いだけのものではありません。長い時間をかけて磨かれてきた知恵や美しさが、今の私たちに語りかけてくれるものです。 だからこそ、その魅力を次の世代へ届けるには、今の暮らしに合った新しい伝え方が必要だと思います。まずは「知ってもらう」「触れてもらう」ための仕組みづくりから。それを知って少しでも日本文化の楽しさ美しさをSNSや動画など、現代ならではの方法で魅力を発信していただければ嬉しく思います。

一人一人の活動が伝統文化を未来へつないでいく大切な一歩になるはずです。

香道の体験

研修の最後に、日本伝統文化を「知ってもらう」「触れてもらう」ために「聞香」を体験いただきました。「聞香」は香木という木のチップを香炉であたため微細な香りを鑑賞してもらうものです。単に鼻で「嗅ぐ」のではなく、神経を集中させて香りと向き合うため「聞く」と表現するのが特徴です、とお話ししました。日本的な微妙なニュアンスを、通訳さんがどのように表現していただいたのかは謎ですが、ともかくご理解いただいた様子でした。

この体験をみなさんとても楽しみにされていたそうですが、会議室で火は使えませんので、今回は山田松香木店さんの電子香炉 kiokaを使用してお香を聞いていただきました。これがなかなかの優れもので、個人的にかなり気に入っています。
この研修に参加いただいた方の中には、基本的な日本語を理解できる方も多く、文字にも興味津々でした。

まずはお香を聞いていただく前に、聞き方のご説明をしなくてはなりません。右手親指と人指し指で望遠鏡のように覗き穴を作って香りが逃げないように筒状にして香炉の上部を覆うように構え、3回香りを「聞く」作法をご案内しました。言葉はもはや必要ありません。見て真似て頂ければよいわけです。

いよいよ、本番開始。
最後の方が聞き終わるまでは静かにしてお香を聞いていただくようにお願いしました。会議室が神聖な空気となり、みなさんがお香を聞いた後、どのようなことをイメージしたかをお聞きしてみました。自然の何かにたとえるようにお伝えしていないのですが、海や山や祖母のことを思い出したなど、しばし自然の中に入り込んでいかれたようです。

座学においても、時間ギリギリまで熱心に伝統文化について積極的に感想や意見交換を行い、あっという間に時間が過ぎていきました。もちろん、お香を聞いた後は、お香の種類、道具、どこで買えるんでしょうか?どれくらいの価格でしょうか?など質問の嵐です。知って体験することで、楽しさも興味もマシマシになりました。
「体験は最高の知識なり!」ですね。

伝統文化の継承

文化を「知り」それによって趣味嗜好の合う人と「繋がり」魅力を外へ「発信する」。このステップを繰り返すことで、自分自身の生活も豊かになり、それを伝えた周りの人も幸せになっていくのではないでしょうか。
また、日本の文化を深く知ることは、日系人としての誇りに繋がると同時に、自国の文化の精神性を知ることで、不思議と他国の文化にも共通する考え方に気づき、他者への敬意や友好関係へと発展していきます。
今回の研修の経験を自国に持ち帰り、楽しかった経験をSNSや動画を活用して発信することで、日本の伝統文化の継承の一助になっていただけることを期待しています。

Souvenir♥

研修会終了後には、みなさんから感謝のお声とともに、各国のおやつをいただきました。ちょっとした自国のお土産を渡す文化は各国共通ですね!

書いた人

MAO
日本文化大好きリケジョ。
武家茶道上田宗箇流、仕覆制作、飾り紐、組紐などの手習いや自宅のベランダで茶花を育てる。
Return Top
G-WF6K6TPY85