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能の祈りをオンライン解説 宝生流 佐野 登先生

能の祈りをオンライン解説 宝生流 佐野 登先生

自粛モードの中、「おまっちゃっと」と称してJCbase会員向けにオンラインチャットを開設してきました。その中で、宝生流シテ方 佐野登先生をお招きして能のお話をお伺いしましたので紹介させていただきます。

今回は「船弁慶」という演目についてご解説をいだきました。演目には人を思う気持ちや願いが込められ、どのように感じとるかを想像し考えることが大切であるかを知ることができました。医療が発展した現代の新型肺炎ウィルスとはいえ、人が願うという事は技術が進化した今でも変わりません。他にも烏帽子を落とす場面について、確実にその瞬間に落とすために烏帽子の紐のご苦労話をドキドキしながら伺い楽しいステイホームの時を過ごしました。みなさんはどのような想像力でこの演目を感じられるでしょうか?ぜひ実際に観てみたいものです。

「船弁慶」

義経が登場する演目は多いですが、主人公として扱っているのは「八島」(やしま)のみです。今回の能「船弁慶」も前場面は静御前、後場面は平知盛が主人公です。

平家を追討した源義経でしたが、兄、源頼朝と不仲になります。西国へと落ち延びていく途中、尼崎の大物浦に着きます。義経は、弁慶の進言を受け、今まで同行してきた静御前を都へ帰す事にします。別れの宴で静御前は舞い、義経一行の門出を祝い、再会を願い、涙ながらに見送りました。
船を出すと、穏やかだった海は、次第に激しい嵐になります。すると壇ノ浦の戦いで滅ぼした、平家一門の亡霊が現れます。平知盛の怨霊は、義経一行へ襲いかかります。しかし、弁慶が祈り伏せ、怨霊は海に消えて行きました。

義経役は子どもの役者が演じます。何も知らない人は、あんな子どもの時に静御前と付き合ってたのと、勘違いします。二人の別れの場面が見せ場なのですが、生々しい恋愛感情にだけ視線が行かぬ様にする、能ならではの演出です。

義経との別れの場面では、静御前が烏帽子を脱ぎ落とし、悲しさを強調します。演者は左手で二本の紐の端を引き、解き落とします。普通の蝶結びでは解くことができないので、特別な結び方をします。しかし舞の途中では落ちない様にしなくてはいけませんので、烏帽子をつける後見役は緊張しますね。道成寺の烏帽子も同様です。

船に見立てた舞台装置は竹の枠だけです。船頭役は狂言方が勤めます。海が次第に荒れて行く様子を、一人芝居で表現します。

船弁慶は、一日の上演の順序では最後になる、切能です。弁慶のセリフの「この御船の陸地(ろくじ)に着くべきやうもなし」(風が荒れてきたので、この船は着岸できそうにない)を子ども時代に、午後6時に着く船なんだと解釈していました。

ご紹介

佐野 登先生は自粛生活の中、日々Faccebookで演目の解説を発信なさっておられました。能を観に行かれる際にはチェックされてみてはいかがでしょうか?演目の見どころが増えると思いますよ!

佐野 登(さの のぼる)
能楽師シテ方(宝生流)
一般社団法人 日本能楽謡隊協会 代表理事
重要無形文化財総合指定(能楽)保持者。(社)日本能楽会及び(社)能楽協会会員。
https://www.facebook.com/nohgaku/

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