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能からのメッセージ「望月」(もちづき)

能からのメッセージ「望月」(もちづき)

自粛期間中、宝生流シテ方 佐野登師が能の演目の解説を日々発信してこられました。「能」が発信するメッセージを少しでもお伝えできればとコラムにさせていただきました。


仇討ち

仇討ちをテーマした演目に能「望月」(もちづき)があります。
信濃国の安田庄司友春は、従兄弟の望月秋長と口論の末殺されます。その後、友春の家来小沢刑部友房は、守山宿で「甲屋」という宿を営んでいました。そこへ亡くなった主君の妻子が、偶然泊まりに来て再会を果たします。たまたまそこへ、仇の望月も泊まりに来ます。妻子を芸人一行に仕立て、望月の座敷へ上げ、友房も獅子舞を見せ、望月が酒に酔った隙に友春の子と共に仇討ちを果たすというストーリーです。舞台上は、生きている人間しか登場しないので、わかりやすい展開です。

獅子

この曲の中では、獅子を舞う場面が大事な見せ場です。「石橋」で舞う獅子とは違い、人間が獅子舞を舞うという想定です。能ではお芝居の様にはならない様にしながら、生きた人間ドラマを表現しなくてなりません。
仇討ちとは、親や主君を討たれた、弱い立場の子や家来が力をつけて仇を討つ事を言い、その逆に、主君や親が仕返しをする事は仇討ちとはいいません。
獅子舞を舞うシテの衣装には、牡丹と蝶があしらわれています。牡丹は百花の王であり富を表し、蝶は姿を変えて成虫になるので、復活の意味があり「ちょう」は長に通じ長寿の意味もあります。獅子は百獣の王でありとてもめでたい組合せです。

メッセージ

先ずは信じ祈り願う事が大事ですね。その為に謙虚に知識を身につけてれば、物心必ず良くなる、というメッセージ想像上の生き物の獅子ですが、こんな話があります。獅子は体に寄生する虫に弱く、その虫を退けるために夜になると牡丹の下で休み、牡丹から滴る露をシャワー代わりにしていると。だから牡丹と戯れているのです。唐獅子牡丹の言葉もわかる様な気がします。

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ご紹介

能楽師・佐野登師は、能楽師として第一線で活躍する一方で、能を使った教育や地域活性化の取り組みを精力的に展開されています。小山龍介氏との対談『佐野登の能からのインスピレーション』でも興味深いメッセージを発信されています。

佐野 登(さの のぼる)
能楽師シテ方(宝生流)
一般社団法人 日本能楽謡隊協会 代表理事
重要無形文化財総合指定(能楽)保持者。(社)日本能楽会及び(社)能楽協会会員。
https://www.facebook.com/nohgaku/

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