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能からのメッセージ「烏帽子折」(えぼしおり)と「熊坂」(くまさか)

能からのメッセージ「烏帽子折」(えぼしおり)と「熊坂」(くまさか)

自粛期間中、宝生流シテ方 佐野登師が能の演目の解説を日々発信してこられました。「能」が発信するメッセージを少しでもお伝えできればとコラムにさせていただきました。


大盗賊 熊坂長範

石川五右衛門、鼠小僧と並ぶ大盗賊に熊坂長範が居ます。熊坂が主人公の演目に能「烏帽子折」(えぼしおり)と能「熊坂」(くまさか)があります。金売吉次という商人が熊坂に襲われるのですが、吉次と同行していた牛若丸に討たれてしまいます。その物語が「烏帽子折」です。その後日談の物語が、この「熊坂」です。

旅の僧が美濃国赤坂で一人の僧に出会うと、ある人の命日であるから供養をしてほしいと頼まれます。誰の供養なのかも告げられず、庵室には仏像もなく、そこには沢山の武具が置いてありました。不審に思い尋ねると、この辺りには盗賊が出るので、その時にはこの武具を持って助けに行くのだと説明されます。やがて、謎の僧が寝室へ入ると庵室はなくなり、辺りは草むらになります。地元の男から、これは熊坂長範の幽霊に違いないと説明を受け、あとを弔っていると、熊坂長範の霊が現れ、牛若丸に討たれた様を見せ、消え失せます。

前場面では、シテもワキも僧の役で同じ扮装で登場する珍しい演目です。後場面では、長刀を使い牛若丸との戦いを一人芝居で演じるのが、見せ場であり難しいところです。

メッセージ

熊坂長範は平安時代に生きた伝説の大盗賊です。子どもの頃は普通の子であったとか、暴利をむさぼる者や、大金持ちから盗んだ物を貧しい人々へ与えたなど称賛する様な話があります。

しかし「熊坂」ではヒーローは牛若丸であり、悪い事は悪い、悪い奴は悪いとまずしっかりと伝えています。熊坂長範は生きている間には、何度ももう悪い事はしませんと言い続けたのでは。でも改心しなかったので退治されます。

この旅の僧へ熊坂長範の霊は、自分が準備している武具は、盗賊退治のためであると述べたり、生前の悪業の為に誰も弔ってくれない事を嘆きます。やっと改心したのですね。死んだからわかった事を、死者がメッセンジャーになり夢の中の出来事の様に伝える、能ならではの手法です。だから見る人はそれぞれの考え方で、己れの生き方の参考にできます。

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ご紹介

能楽師・佐野登師は、能楽師として第一線で活躍する一方で、能を使った教育や地域活性化の取り組みを精力的に展開されています。小山龍介氏との対談『佐野登の能からのインスピレーション』でも興味深いメッセージを発信されています。

佐野 登(さの のぼる)
能楽師シテ方(宝生流)
一般社団法人 日本能楽謡隊協会 代表理事
重要無形文化財総合指定(能楽)保持者。(社)日本能楽会及び(社)能楽協会会員。
https://www.facebook.com/nohgaku/

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