文化財・社寺修復を手掛ける塗師の旅たびがらすによるコラム長期連載です。シリーズタイトルは「旅がらすの日曜日 ~社寺修復塗師の街並み散策日誌~」。様々な季節、日本各地の街並みを探訪、古の遺構にも目を向け、社寺修復塗師ならではの視点で綴っていきます。肩の力を抜いてお楽しみいただければ幸いです。
日本では漆の木は縄文時代の頃から植栽し利用された痕跡がある。
江戸時代には全国各地で藩の奨励の下、植栽・採取されてきた漆だが、明治に入り幕藩体制が終わると、管理下にあった漆畑は取り壊され、また荒れ地となった。同時に調度品や武具等での需要もなくなり、安価な中国産漆を輸入するようになっていく。
今では国内で使用している漆のうち約98%が中国からの輸入となっている。残りの2%の中のおよそ8割が、ここ二戸市浄法寺町(じょうぼうじ)を中心とする岩手県産である。
同じ地域だけに偏ると、やはり天候等で不作の年も出てくる。また掻き子(漆を育て採る職人)の高齢化や後継者不足の問題は近年絶えずつきまとっている。
漆掻きの道具を作れる方がお一人しかいないという大きな問題もある。
うちの社長の文化庁への提言等もあり、今年度から国宝・重要文化財建造物の修復に使用する漆は完全に日本産に移行していく方針が文部科学省から打ち出された。これにより、国内での漆生産の危機的状況が少しずつではあるが解消される方向に向かうとみられる。
漆に携わる者としてこの国産漆の回復に向けて、これからも働きかけていけるよう努めたいと思う。
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