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能のいろはを学んで生きるヒントに!

能のいろはを学んで生きるヒントに!

JCBase主催の能ワークショップ『能のいろはを学んで生きるヒントに!』に参加してきました。JCbaseでは、座学だけではなく体験を通じて伝統文化のエッセンスを学ぶことができます。

マンションの一室に能舞台

ワークショップの場所は、水道橋駅からほど近い宝生能楽堂の2階、芝礧荘舞台[しらいそうぶたい]です。三々五々集まってきた参加者が、お互い自己紹介等を行い、なごやかな雰囲気でお稽古の場所に入りました。

一見、普通の「マンションの玄関」を入ると、そこには、能舞台が広がっていました。お香が焚かれて、よい香りです。

修業時代

佐野先生からは、今回の参加者、現役世代の働く人に参考になる話を、ということで、内弟子時代の話をして下さいました。

・12年間内弟子として、師の身の回りの世話から掃除、車の運転等までやっていた。
・先を読んで、気を使っていく、という訓練を徹底的にしていった。
・能は、大衆芸能の歌舞伎等と決定的に違うところがある。時の権力者に対して演じていた。ある意味、切腹覚悟。
・このため、お客様にいやな思いをさせてはいけない、一番きれいにみえるように、失礼がないように、と心がける。
・稽古を楽しいと思ったことは一度もない。でもよく見て、よく聞いて、真似をする。
・まずは言われた通りやれ!と言われる。
・謙虚さ、素直になること、が大切。

佐野登先生

伝統と革新

「伝統と革新」というテーマのお話では、ソニーのカメラα(アルファ)のCMでのエピソードなども引き合いに出されながら、伝統という芸の世界において、まずは先人に感謝することの大切さを説かれました。一方で、今生きている人にメッセージできるのは自分であるとも。

「伝統を継承するためには、常に伝え続けなければいけない。未来につなげるためには、現在を生きる自分が常に革新していく、という思いを持たないといけない」

本来やるべきことをやるためには、どうしたらよいのか、何をしなくてはいけないのか、深く深くを追及されいてることに感銘を受けました。単に新しさを追求し壊すことが革新ではないという言葉が胸に刺さりました。

体験ワークショップ

参加者の一人が、能のお面をつけて舞台に立たせてもらいました。しかし、お面の目の穴から見えるところは限られており、素人では歩くのも大変そう。佐野先生曰く、足元を見ると、お面ごと下を向いてしまうため、足元を見ずに歩くとのこと。プロフェッショナルが何気なくやっていることは、実はすごいこと、、というのを改めて感じました。

面の装着体験

参加者3人が舞台に出て、先生と一緒に能の所作を体験しました。姿勢を少し前傾姿勢にして、出だしはそろりそろりと、途中から緩急つけて、身体を運びます。先生のご指導と、能舞台の持つ空気で、とても雰囲気が出ていました。また、全員で、謡も体験。先生に続いて、「東遊びの数々に~」と、羽衣の一部を皆で声に出してみました。

仕舞の体験

つづいて能で使う装束や小物を、次々と見せて下さいました。
唐織、厚板(あついた)、長絹(ちょうけん)という上着、、、。豪華な色鮮やかな浮織等、参加者からは、「きれい~。。」と声にならないため息がでます。道具は消耗品。作る人がいなくなったらお終い。「伝えていく」ということは、僕らのところだけではできない、と佐野先生は語ります。

装束を間近で!

最後に佐野先生が、経政、羽衣、高砂を舞って下さいました。ゆっくりと謡がはじまり、扇を使った緩急ある舞い、摺り足やドンと鳴らされる足の音等で、幽玄の世界に引き込まれました。

生きるヒント

今回、私が印象的だったことは、佐野先生が、素人の我々に対して、惜しげもなく、謡、装束、仕舞、いろいろ聴かせて、見せてくださったことです。私にとっては、ほぼ初めての「能」体験でしたが、もっと知りたい、舞台を見てみたい、と感じました。

先生が「本物」を見せてくださったことが、心に響いたようです。先生は、たぶん自然にそうされていたのだと思いますが、相手を見ながら(でも出し惜しみなく)自分ができる最大限をやるということが、いかに重要かを体感しました。

また、今回のお題であった「能のいろはを学んで生きるヒントに」という文脈からは、先生が何度もおっしゃっていた「伝えることは難しい」という言葉が心に残りました。「何を大切にして、何を伝えるのか。何を変えていくのか」今の変化が激しい世の中でビジネスを行う上でも重要なことなのではないでしょうか。

今回は、参加者それぞれが「生きるヒント」を頂いたように思います。さて、どんな想いを胸に、帰途についたのでしょうか。

ご紹介

能楽師・佐野登師は、能楽師として第一線で活躍する一方で、能を使った教育や地域活性化の取り組みを精力的に展開されています。小山龍介氏との対談『佐野登の能からのインスピレーション』でも興味深いメッセージを発信されています。

佐野 登(さの のぼる)
能楽師シテ方(宝生流)
一般社団法人 日本能楽謡隊協会 代表理事
重要無形文化財総合指定(能楽)保持者。(社)日本能楽会及び(社)能楽協会会員。
https://www.facebook.com/nohgaku/

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