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旅がらすの日曜日 ~社寺修復塗師の街並み散策日誌~ 愛知県 半田市(前編)

旅がらすの日曜日 ~社寺修復塗師の街並み散策日誌~ 愛知県 半田市(前編)

文化財・社寺修復を手掛ける塗師の旅がらすによるコラム長期連載です。シリーズタイトルは「旅がらすの日曜日 ~社寺修復塗師の街並み散策日誌~」。様々な季節、日本各地の街並みを探訪、古の遺構にも目を向け、社寺修復塗師ならではの視点で綴っていきます。肩の力を抜いてお楽しみいただければ幸いです。

蔵と運河のミツカン王国 ―愛知県半田市―
先日、知多半島中部の町、半田へ行って来た。普段町歩きは大抵ひとりなのだが、今回は東京スリバチ学会の皆川会長が名古屋に来られていたこともあり、会長と名古屋スリバチ学会の方々に同行させて頂いた。スリバチ~と言っても、すり鉢の生産組合とかそんなんではなく、スリバチ状の窪地や谷地形をいたって真面目に調査・研究している方達の集まりだ。

今回、岡崎の仕事で愛知へ来て、今で3ヶ月近くになるが、正直半田に行くことはないと思っていた。数年前会社の仕事で半田にある山車の修復があったのは覚えている。小さな仕事で関わってもいないので何をやったのかは知らないが、半田という町に関しては、山車を曳き廻すまつりが有名なのだろうという印象と、どこら辺にあるかくらいは昔から知ってはいた。しかし、近隣の名古屋の人でさえあまり行くことはないというこの町は、実際訪れてみると、蔵と運河に囲まれた歴史情緒漂う不思議な魅力の町だった。
名鉄知多半田駅から少し海側へ行ったJR半田駅へと向かい、さらに海側へと歩を進めて行く。JR半田駅舎のホームを繋ぐ跨線橋は全国で最も古いそうだ。
緩やかな傾斜から極端な凹みへ、はるか昔の海岸線へのアプローチか、イメージが膨らむ。JR架線下の不自然なトンネルをくぐると、川筋の読める湾曲した道路、脇には水路…下は暗渠となっている。

そしてそこには、旧花街とおぼしき建屋がかつての形を残したまま並んでいた。
川なりの道が開渠となったところから水路は広がり運河へ繋がる。その瞬間、運河に映る黒板囲いの圧巻の倉庫群に目を奪われる。江戸時代、海運業と共に醸造で栄えた半田。その中心にあったのが、当時は酒造業、その後中埜酢店として発展し、現在なお酢のトップシェアを誇る醸造メーカー「ミツカン」である。このミツカン醸造蔵が建ち並ぶ半田運河沿いの景観は環境省の「かおり風景100選」にも選ばれている。

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