先日 小山龍介氏 の講演を聴講してきました。
小山氏は、会社経営者でもあり数々のハックシリーズ等の著作や、ビジネスモデルジェネレーションの翻訳も手がけるなど、第一線のビジネスパーソンです。その一方で、宝生流シテ方能楽師の佐野登に師事され能舞台に立った経験もあるなど、ビジネスと伝統文化の両方の視点を持っている方です。
講演のテーマは「能が刺激する創造的思考」。脳ではなく「能」という伝統文化がビジネスの創造的思考にどう繋がるのか、大変興味深いテーマです。
前半で話があったのは、最近流行りのデザイン思考ワークショップについて。
例えば「銀行」と「ホテル」の2者が新しいサービスを提供するとしたら?あなたならどんなサービスが思いつくでしょう?ありがちなのは、両者ができることの掛け合わせ的なアイデアで、実際に2者の関係者を集めてワークショップをやるとそういうアイデアが出るそうです(ホテル内に開設する24時間営業の銀行店舗、金融サービスコンシェルジュの配置、etc,,,)
ところが、参加者に芸術家やクリエイターが入ると、一見突飛なアイデアが出やすいんだとか。銀行とホテルの例で言えば、例えば「新しいスニーカー」。これは、既存リソースの組合せといったロジックでは説明がつかない発想ですが、この異なる概念をつなぐ「非常識の常識化」こそイノベーションの肝であるとったお話でした。
後半は、講演のテーマでもある「能とイノベーション」の関係に話が及びました。
イノベーションの3つのプロセスとして、「構造化」→「想定外の要素の投入れ」→「再構造化」があり、これが伝統文化の「守=サイエンス・破=アート・離=デザイン」に対応するといったお話や、イノベーションは、非常識の常識化であり、伝統芸能も含めた「アート」の世界にいる人たちが「非常識を人々に伝える役割」を持っているといったお話など。
そして、私が最も印象的だったのは、小山氏が、能における「舞台と自我の関係」について、
能舞台のうえで型を演じているとき、自我は矮小化され、舞台から演じることを求められる感覚になる
と表現されていたことです。
自分がどのように演じたいかという「我」ではなく、舞台という「場」や演目の「場面」から求められ、自然とその動作になるというお話がありました。これには、身体表現として自然と無理のない合理的な動きになるという意味と、神事や仏事に通じる超越的な存在を舞台上で意識するという、2つのお話があったように思います。
これは、イノベーションの肝が ”今できること” の延長から離れて、非常識で非連続な価値を生み出すことだとすると、能舞台を経験することで「自我を脱する」感覚を理屈ではなく体得できることが重要なのだと、私なりに理解しました。
聴講前は内容がまったく想像ができなかった能とイノベーションの関係ですが、体現者ならではの視点で語っていただき、考えるきっかけと視点の補助線をいただいたように思います。まだまだ、腹落ちする理解にたどり着いたとは言えませんが、まさに脳が刺激されっ放しの1時間半でした。
今すぐできるテクニックのHow Toではなく、実践と体感からようやくたどり着くことができるイノベーションのエッセンスは、迂遠なようで、だからこそ日本のビジネスパーソンの武器になるのかもしれません。私自身も実践を通じて、日本の伝統文化のエッセンスとビジネス文脈の繫がりを見つけていきたい、そんな宿題をもらったような講演でした。私なりにこのテーマはもっと追及していきたいと思います。
ご講演後は、参加者の皆様と小山氏を囲んだ懇親をしました。皆様の満足げな様子が印象的ですね!