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旅がらすの日曜日 ~社寺修復塗師の街並み散策日誌 鎌倉(前編)

旅がらすの日曜日 ~社寺修復塗師の街並み散策日誌 鎌倉(前編)

文化財・社寺修復を手掛ける塗師の旅がらすによるコラム長期連載です。シリーズタイトルは「旅がらすの日曜日 ~社寺修復塗師の街並み散策日誌~」。様々な季節、日本各地の街並みを探訪、古の遺構にも目を向け、社寺修復塗師ならではの視点で綴っていきます。肩の力を抜いてお楽しみいただければ幸いです。

こけ-むす(苔生す)

苔が生える、苔で一面に覆われる、古めかしくなる、永久である、などのたとえに用いられる(小学館 国語大辞典)

とある。
単に苔が生えるということにとどまらず、生むことを重ねて未来永劫に発展し続けるという深い意味を持つようだ。

この石段もまた、そんな言葉がぴったりはまる。奈良時代に創建された鎌倉最古の寺、坂東三十三観音第一番札所 杉本寺。伝運慶作の迫力ある仁王像の迎える門の先には鎌倉石の苔むした石段が本堂に向かって伸びている。

切通しから採れた鎌倉石は磨り減りやすい凝灰質砂岩で、谷(やつ)の合間の立地も相まって苔が出やすく、古びた感じになりやすい。そのためこの辺りでは好んで用いられた。

趣ある茅葺きの本堂には、開山した行基自らの作と伝わる十一面観音を含む三体の観音像がご本尊として扉の向こう、ほの明かりの中たたずんでいる。

観音様の見守り続けたこの石段が、幾代を経て古都鎌倉に悠久の時が未来永劫に続くかと思いおこさせる。

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